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長時間労働の労働災害について

長時間労働の労働災害について

長時間労働を原因とする労災

長時間労働が原因となって発生することが考えられる労災認定は、以下の2つ。

(1) 脳・心臓疾患の労災認定

(2) 精神障害の労災認定

特に(1)については、令和3年9月に認定基準の改正が行われ、今まで以上に労災認定がされやすい内容となっています(基準となる時間に満たない場合でも、労働時間以外の負荷要因を考慮して業務起因性を判断する旨を明示。会社が責任を負う可能性が今までよりも広がる)。

企業は、今まで以上に労働時間の管理が重要となります。

 

1 脳・心臓疾患の労災認定基準

参考資料としては、脳・心臓疾患の労災認定(厚生労働省)があります。

(1)脳・心臓疾患の労災の認定要件

①長期間の過重業務、②短期間の過重業務、③異常な出来事のこれらのいずれかの「業務に明らかな過重負荷」を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は業務上の疾病として取り扱われます。

注意する点として、労働者が既往症として脳や心臓疾患を持っていても、それを理由に労災認定が否定されません(脳・心臓疾患の「発症の基礎となる血管病変等」をその「自然経過」を超えて「著しく増悪」させうることが客観的に認められる負荷があれば足りる。)

 

(2)①長期間の過重業務(会社が責任を問われやすいケース)

発症前6か月間の時間外労働時間数を重視し、労働時間以外の負荷要因も考慮して判断されます(幅のある期間における時間外労働時間数に着目した基準)。

ア 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり概ね45時間を超える時間外労働が認められない場合、業務と発症との関連性は低いと評価されやすい。

イ 概ね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できる。

ウ 発症前1か月間に概ね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと判断される。

 

上記基準は、労働時間が疲労の蓄積に最も重要な要因と考えた認定基準であり、時間外労働時間数が増えれば増えるほど認定されやすくなります。

基準に満たない場合でも、労働時間以外の負荷要因を考慮したうえで労災認定がなされます。

なお、認定された具体例については上記参考資料に掲載があります。

 

(3)②短期間の過重業務(会社が責任を問われやすいケース)

発症前概ね1週間の過重業務の有無から判断する(短期期間における労働の質に着目した基準)業務と発症との時間的関連性は、以下のとおりです。

ア 発症直前から前日までの業務が特に過重であるか否か

イ 発症直前から前日までの間の業務が特に過重であると認められない場合であっても、発症前概ね一週間以内に過重な業務が継続している場合には業務と発症との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に過重であるか否か

 

以下の場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できる。

ア 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合

イ 発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行う場合など過度の長時間労働が認められる場合など

※労働時間の長さ以外にも、負荷要因を考慮する。

 

(4)③異常な出来事

発症直前から前日における出来事の有無から判断されます(突発的に生じた出来事の質に着目した基準)。

ア 精神的負荷

→極度の緊張、興奮、恐怖、驚愕等の強度の精神的負荷を引き起こす事態

イ 身体的負荷

→急激で著しい身体的負荷を強いられる事態

ウ 作業変化

→急激で著しい作業環境の変化

 

2 精神障害の労災認定基準

参考資料としては、「精神障害の労災認定」(厚生労働省)があります。

(1)労災認定の要件

① 認定基準の対象となる精神障害を発症していること

② 発病前6か月の間に業務による心理的負荷が「強」になる事由があること

③ 精神障害を発症するに至った原因が業務上のものであること。

 

(2)心理的負荷が「強」となるケース

ア 「特別な出来事」としての極度の長時間労働

発症直前の1か月に概ね160時間を超えるような、またはこれに満たない期間にこれと同程度の時間外労働を行った場合(例えば3週間に概ね120時間以上)

イ 「出来事」としての長時間労働

① 発症直前の2か月間連続して、1月あたり概ね120時間以上の時間外労働を行った場合

② 発症直前の3か月間連続して、1月あたり概ね100時間以上の時間外労働を行った場合

ウ 他の出来事と関連した長時間労働

出来事が発生した前や後に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合、心理的負荷の強度を修正する要素として評価する。

例えば、転勤(心理的負荷「中」)をした後に100時間程度の時間外労働を行った場合が考えられます。

 

3 労災認定基準を前提とした企業リスク

長時間の時間外労働の事実が存在した場合、会社としては労災リスクを負う可能性が高くなります。

労災認定後の民事訴訟

1 労災認定後の会社のリスク

労働者が、会社に対して、会社の安全配慮義務違反を理由として損害賠償請求を行う可能性があります。

 

2 裁判例

裁判では、労働者が疾患を発症する(危険性がある)ことについて、会社に予見可能性があるのか?という点が争点になります。

裁判例としては、Y社に入社した新入社員AがY社の大衆割烹店で調理業務に従事していたところ、入社4か月後に急性心不全により死亡した事案で、会社だけでなく、取締役に対しても総額4000万円の賠償義務を認めたものもあります。

この裁判例における時間外労働時間数は、死亡前1か月間103時間、2か月目116時間、3か月目114時間、4か月目88時間(死亡月)でした。

裁判所の考え方は、多数の社員に長時間労働をさせていれば、そのような疾患が誰かには発生しうる蓋然性は予見できるのであるから、現実に疾患がどの個人に発生するかまでは予見しなくとも、災害発生の予見可能性はあったと考えるべきであるというものです。

裁判例では、長時間労働を理由とする労災認定がなされると、会社だけでなく、悪質な場合には会社の役員個人への損害賠償責任を認める傾向にあると言えます。

長時間労働を是正するにはどうすればいいか

参考資料としては、「時間外労働削減の好事例集」(厚生労働省)があります。

外注する、ITツールの導入もありますが、これらは既存の業務を外部に依頼するか、道具に頼むかの違いはありますが、既存の業務量は変わりません。最初に取り組むべきことは業務量の削減と考えます。例えば以下の点を注意しながら日々の業務の改善を進めていきましょう。

① 移動時間は利益を生まないので,移動時間を削減するか、移動する時は,効率よいルートを探る。

移動時間にできることをあらかじめ決めておく。

② 今ある仕事のやり方が絶対とは思わない。

ゼロベースで考えてみて,時間の短縮ができるかを考えてみる。

③ 事前準備(資料準備、事前調査)をしっかり行う。

④ 事後の振り返りを行う。

⑤ 従業員が残業をする時は、上司はその理由を聞く。どうすれば残業しなくてもいいのか,その対策を共に考える(業務量,仕事のやり方を知らない等)。

⑥ 探す時間を減らすためには,整理・整頓を行う。

最後に

長時間労働は、従業員や会社としての経験値を上げることで、売上、利益を上げて会社、経営者、従業員全員にとってメリットをもたらすから許容されていた面があります。

しかし、長時間労働は従業員の健康を損ね、会社、経営者には労働災害、損害賠償のリスクを発生させるデメリットの方が大きいと言えます。

我々の時間は有限ですので、無駄なことに費やす時間はありません。

長時間労働の是正は、生産性を向上させます。1日でも早く,より良いサービス、製品を提供し、顧客の悩みを解消し,顧客に利益をもたらすことで、より多くの人の役にたつことができます。

結果,働く従業員も経営者も幸せになり、かつ報酬も得られることになります。

長時間労働によってもたらすとされてきたメリットを今度は長時間労働を是正することで同様のメリットを実現させていきましょう。

以上

監修者情報
代表弁護士萩原 慎二

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