
| 【事例】
妻は、会社員の夫と共働きをしており、平凡ではありますが、幸せな婚姻生活を送っていました。 しかし、突然夫から離婚を切り出され、家から出て行った夫の代理人弁護士から離婚届が送られてきましたので、ショックを受け、何も考えることができない状態になり、離婚届に判を押してしまいました。 冷静になってみると、今後の生活に不安を覚えたので、妻なりに、インターネットで財産分与の実態を調べるうちに、財産分与で受領することができるのは、夫婦共有財産の2分の1にあたる金額が原則であるということを知り、『妻は、夫婦共有財産の2分の1の金額の支払しか受けとることができないのでしょうか』という内容で相談にいらっしゃいました。そして、離婚から半年が経った頃、財産分与調停の申立てを行うこととし、弁護士に依頼しました。 |
夫も妻も婚姻後は、それぞれが各自の収入、預貯金を管理し、それぞれが必要な時に夫婦の生活費用を支出するという形態をとっていた夫婦でありましたし、収入はほぼ等しいものでしたが、夫は婚姻期間中、家事育児等の家事労働を全く行わず、妻が専ら15年間という長期間にわたり、家事労働を行ってきた本件事案のような場合でも、夫婦共有財産の形成に対する夫婦双方の寄与の程度(寄与割合)は、特段の事情のない限り、同等であるといういわゆる2分の1ルールが適用され、2分の1ルール修正のための特段の事情が認められることはないのかが問題になりました。
2分の1ルールは、夫婦の経済的協力の在り方には、夫が稼働し、妻が主婦である場合のほか、共働きの場合など、様々な形態があり得ることを念頭に置いた上で、婚姻生活における夫婦双方の役割を総合的に評価し、その寄与割合を原則として同等に推定するものですので、これを修正するべき特段の事情が認められるのは、寄与割合に差を付けなければ公平に反するような特段の事情が明確に認定できる場合に限定されることになります。
⑴収入がほぼ等しい共働きの夫婦であること
専業主婦型の場合、原則として、寄与割合は平等とされています。その寄与割合の修正が認められる場合としては、配偶者の収入が非常に多く、その理由が稼働する一方の特別の資格や能力による事情がある場合であり、本件のような共働き型とは異なる事情が必要になります。
⑵専ら妻が家事労働を担っていたこと
家事労働そのものも、財産形成に寄与しているといえることから、これを夫婦の一方のみが行った場合には、専業主婦型でなくても、寄与割合で評価する必要があります。
家事労働を財産形成に関して評価しないと公平とはいえないからです。
本事例では、⑴⑵が認められましたので、寄与割合に差を付けなければ公平に反するような特段の事情が明確に認定できる場合であるとして、寄与分が妻6:夫4の割合に修正されました。
| 【大阪高判平成12年3月8日判時1744・91】
主に専業主婦であった妻の夫に対する財産分与請求の事案でありますが、夫は一級海技士の資格を持ち、1年の内、半年から11カ月程度海上勤務をするなど海上勤務が多かったことから多額の収入を得ていました。他方、妻は専業主婦をしており、一人で家事育児を行っていた事案です。 |
本件でも、解決事例と同様に夫婦共有財産の形成に対する夫婦双方の寄与の程度(寄与割合)は、特段の事情のない限り、同等であるといういわゆる2分の1ルールが適用され2分の1ルール修正のための特段の事情が認められることはないのかが問題になりました。
⑴ 夫の資格
本件事案では、夫は一級海技士の資格を持ち、その資格が夫の財産形成に多大に影響したことが前提にあることが考えられます。
⑵ 就労の態様による格差
資格を持った夫が1年の内、半年から11カ月程度海上勤務をするなど海上勤務が多かったという非常に過酷な環境に身を置くことによって高収入を得たという事情が、寄与割合の修正を行う合理的な理由を支えるものです。
大阪高判平成12年3月8日の事案では、上記⑴⑵が認められたので、寄与割合に差を付けなければ公平に反するような特段の事情が明確に認定できる場合であるとして、寄与分が妻3:夫7の割合に修正されました。
財産分与は2分の1ルール(寄与割合)が適用されますが、上記事例や裁判例が示すように、寄与割合に差を付けなければ公平に反するような特段の事情が明確に認定できる場合に限り、寄与割合は修正されることになります。
公平で納得のいく解決のためには、ご自身のケースが例外に該当するかどうかを専門家である弁護士と綿密に検討することが不可欠です。

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