空き家の相続が問題になった場合、相続放棄を検討される方は多いです。しかし、相続人が相続放棄をしたとしても、空き家等の相続財産を保存する義務が残るケースがあります。
今回は、空き家の相続問題について、Bさんからの相談をご紹介いたします(事例は実際のご相談をもとに再構成しています。)。
【事例】
母Aが自宅を残して亡くなりました。家族構成は、母A、長男である私B、次男Cの3人です。母Aはずいぶん前に離婚しており、母Aの両親はすでに亡くなっています。母Aは一人っ子で、兄弟姉妹はいません。
母Aは、遺言を残していました。内容は、「茨城県ひたちなか市●●-●●に所在する自宅土地建物及び預貯金口座●●は長男B、預貯金口座●●は次男Cに相続させる。」という趣旨のものです。
母Aと私Bの二人で住んでいた自宅は相当に古い家であり、私Bは、現在別の場所に新しい家を建てているところで、引っ越しする予定です。また、母A名義の預貯金残高は少なく、多額の借金があると生前の母Aから聞いているので、相続を受けたくありません。遠方に住んで疎遠になっている次男Cも、借金が怖いので相続をしたくないと言っています。
母Aには遺言がありますが、母Aからの相続を受けないことはできますか。自宅を受け取らなければいけないのであれば、空き家として放置することになってしまいそうです。 |
⑴ 自宅土地建物には、Bさんが現在も住んでおり、廃墟になっているわけではありません。そのため、賃貸、売却、相続土地国庫帰属制度、引き取り業者の有償引取等の利用・処分方法が考えられます。
相続土地国庫帰属制度は、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度です。この制度を利用するためには、少なくとも、建物を解体し、土地を更地にする必要があります。木造一軒家の場合、経験的には広さにもよりますが、150万円~200万円くらいの解体費用がかかってしまうことが多いです。
更地にできないのであれば引き取り業者にお金を払って引き取ってもらったりすることも考えられます。
⑵ Bさんが相続したにもかかわらず、自宅を空き家のまま放置した場合、Bさんは、ひたちなか市から空き家対策特別措置法に基づく指導・勧告等を受ける可能性があります。また、空き屋の瓦が飛んで被害が発生した等の場合には空き家所有者の工作物責任(民法717条)等を負う可能性があります。
本件のように被相続人であるAさんから相続人であるBさんやCさんに対し、「相続させる」旨の遺言があったとしても、相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所に申述することによって、相続放棄をすることができます(民法915条1項本文)。
なお、この3カ月の期間は、家庭裁判所へ申し出ることにより、延長することができます(同項ただし書き)。
もっとも、相続放棄をしたとしても、相続人は自宅土地建物の保存義務を負う可能性があります。
⑴ 令和5年4月1日以降、相続放棄者は、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」、相続放棄をしても、他の相続人又は相続財産清算人(民法952条1項)に引き継ぐまで、自己の財産におけるのと同一の注意義務の保存義務を負います(民法940条1項)。
⑵ 「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」とは、例えば、被相続人であるAさんの生前、相続人であるBさんが、Aさん名義の自宅に一緒に住んでいた場合などが考えられます。対象の家屋に占有者自身の家財や荷物等を保管しているか、対象となる家屋の鍵を保有しているか等も保存義務を負うか判断するポイントの一つです。
本件では、Bさんは、Aさんと親子で同居しており、Aさんの死亡後に自宅から転居しようとしています。この場合、相続放棄をしても、空き家となる自宅の保存義務を負う可能性があります。
他方、Cさんのように、実家と離れた場所で生活しており、無関係な生活を送っていたという方であれば、相続放棄をすれば、実家の保存義務を負わない可能性が高いです。
⑴ Bさんが自宅の保存義務を負う場合、他の相続人等に引き継ぐまでその義務は残ります。問題は、他の相続人がいないケースです。
民法では、相続人の順位が決められており、Aさんの子ども達であるBさん及びCさんが相続放棄をすると、Aさんの両親や兄弟姉妹等、次順位の相続人に地位が移っていきます。しかし、Cさんが相続放棄をすると、Bさんには、そういった次順位の相続人がいません。
⑵ そのような場合に、Bさんが空き家の保存義務から免れるには、相続財産清算人を選任するよう裁判所に申立て、裁判所が選任した相続財産清算人に空き家となった自宅を引き継ぐ方法があります。
なお、相続財産清算人を申し立てるのには、管轄の家庭裁判所にもよりますが、30万円~50万円程度の予納金を求められることがあります。更に、相続財産の建物を取り壊す場合、被相続人が残した預貯金等が取壊し費用に不足すれば、申立人に予め負担を求められることがあります。
選任された相続財産清算人は、家庭裁判所の許可を得て、被相続人の不動産や株を売却して金銭に換え、債権者や受遺者への支払をしたりします。また、それでも残ってしまった財産を国庫に引き継ぐ手続きをします。
本件では、BさんとCさんは相続放棄をしました。その後、Bさんは、相続財産清算人の選任申立てを行い、相続財産清算人に空き家となった自宅を引き継いだことで、保存義務を負わないこととなりました。