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経営者の相続問題

経営者の相続問題

今回のニュースレターは、経営者の相続問題についてお話をしたいと思います。

事例

私(甲)は、父の(乙)と一緒に株式会社A社を経営しておりましたが、先日(乙)が亡くなりました。遺言はありません。母(丙)は(乙)より前に亡くなっています。

A社の株式は、(乙)が100%所有しており、非公開株式でした。

(乙)の相続人は、長男である私(甲)、次男である(丁)、三男である(戊)の3人です。(丁)と(戊)は東京で働いています。私は地元に残り、(乙)から後継者として教育を受けA社を支えてきました。今後は私がA社を引き継ぎ、(乙)の経営方針で、A社を盛り上げていきたいと思っています。

けれど、(丁)、(戊)はA社を斜陽産業と言い、値がつくうちにA社の資産や土地を売ってしまおうと言っています。

 

甲は、A社を存続させたいところですが、乙の株式が丁、戊にも相続されれば、A社の経営方針が揺らぎ、A社存続が危ぶまれる状況です。甲は、遺産分割協議もしくは遺産分割調停で、A社株式を自分に集中させたいと考えています。

遺産分割協議中の株式権利行使

遺産分割協議をしている間、株式は、甲丁戊の間で準共有(民法264条)となります。

共同相続人である甲丁戊は、「権利行使者を指定」し、A社に通知しなければ、共有株式についての権利行使をすることができません(会社法106条本文)。

「権利行使者の指定」は、法律的には共有物の「管理行為」にあたるため、共有している甲丁戊の共有持ち分の価格の過半数で決定します。(最判H9.1.28判時1599.139)

そのため、丁・戊がタッグを組めば、丁か戊を権利行使者として指定できます。

さらに、決議権の行使についても、原則的には「管理行為」であるため、持ち分の価格の過半数で決定ができ、丁・戊の意見で株主総会決議を進めてしまうことができます。

もちろん、決議の内容(株式の処分・内容の変更等)によっては、「管理」を超えた「変更」行為になり、共有者全員の同意がなければ決議ができないものもありますが、「変更」に至らないような決議(取締役の選任等)は、丁・戊の意見で進められます(最判H27.2.19判時2257.106)。そのため、甲がA社の運営方針を決定できない状況が起こりえます。

甲は、急ぎ自分に株式を全取得させるよう、丁・戊との遺産分割協議を進めるか、協議が進まないのであれば、調停を起こし、審判を得ることが必要です。

株式に関する遺産分割調停 審判

遺産分割調停で、相続人らの意見が割れる場合、裁判所の審判に結論を委ねることになります(民法907条2項)。裁判所が出す結論は、原則「法定相続分」での分割です。

本件で、法定相続分での分割となる場合、甲は株の33パーセントしか取得できず、結局丁・戊に会社の2/3の株式を取得されてしまい、A社の経営権を甲は取得できません。

ただ、例えば農地等について、農業従事者に農地を集約させることが経済的に妥当な場合、裁判所は、法定相続分での分割とせず、一人の相続人に農地を集約させ、その他の相続人に代償金を払わせる等の判断をすることがあります。

これは、民法906条で「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と定めていることから、農業経営の事情を「その他一切の事情」と読み込み、分割方法を柔軟に決定できるためです。

株式についても、民法906条「その他一切の事情」から、後継者に集中させるべきとの判決が出たことがありますので、今回の事例も当該判決の射程が及ぶのであれば、甲にA社株式を集中させるとの審判が出る可能性もあります。

【東京高裁平成26年3月20日判例タイムズ1410号113頁】

事案要旨 遺産分割調停の審判で、相続分通りの分割となり、株の全取得が認められなかった後継者が、後継者に株の全取得を認めるべき「その他一切の事情」(民法906条)があるのに、それを考慮しなかった審判は結論がおかしいので、後継者に全株式を取得させる結論に変更すべきとして、争った訴訟です。

判決内容 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律や、会社法4条1項1号、8条1項、9条1項等が、中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継で、事業活動の継続に悪影響が生じることを懸念して立法されたという事情を考慮し、①株主構成が典型的な同族会社であること、②経営規模、③次期社長が就任予定であったこと、④後継者に代償金の支払い能力があることの4つの事情を検討し、「その他一切の事情を考慮」して後継者に全ての株を取得させるのが相当と判断しました。

上記判例は、事例のような後継者にとっての希望となりますが、ご注意いただきたいのは、上記判例は会社の個性に着目して判断を出しているため、ご相談いただく案件で、同じ結論が出るとは限らないという点です。そもそも、調停や裁判の場で判断しなければならないということ自体がリスクです。

やはり、最も安全で確実なのは、経営者の生前対策です。

生前対策

(1)丁・戊が協力的なとき

丁・戊が協力的な場合や、代償金が十分に用意できる場合は、事前放棄(民法1049条1項)により、遺留分を事前放棄してもらう方法があり、遺留分の事前放棄を得ていれば、原則的に撤回はできないため、経営者の影響力が強く及ぼせるうちに、経営権を後継者に確定させることが可能になります。

その他、推定相続人全員の合意で、先代経営者が後継者に贈与などした株式等を遺留分算定の基礎財産から控除できる制度である「除外合意」(中小企業経営承継円滑化法4条1項1号)や、推定相続人全員の合意によって、先代経営者が後継者に贈与等をした株式等を遺留分算定の基礎財産に算入するときの価格を相続開始時ではなく合意時の価格とすることができる制度である「固定行為」(中小企業経営承継円滑化法4条1項2号)等の制度もあります。

それぞれ、メリットデメリットもあり、対応可能か検討が必要になるため、弁護士事務所に相談いただければと思います。

(2)丁・戊が非協力的なとき

遺言の作成・生前贈与と持ち戻し免除の意思表示(民法903条3項)等を行いつつ、遺留分侵害額請求が起こされた場合に、侵害額を後継者が払えるよう、生命保険や死亡退職金の受取人を後継者にするなどの準備が考えられます。

他に、無議決権株式(会社法2条17号)を利用しての後継者以外の相続人への議決権制御や、売渡請求権の行使が可能になるよう定款に定めておくこと(会社法174条)等の方法、信託を利用する方法等ありますが、やはり、それぞれの方法に制約等もありますので、弁護士への相談をお勧めします。

最後に

今回の事例では問題としませんでしたが、A社の工場や事務所が所在する土地が経営者乙名義だった場合、丁・戊から地代の支払いを求められるリスクがあります。

また、乙が会社に貸し付けを行っていた場合、相続人である丁・戊から会社に対して貸付金の回収が行われてしまい、それが経営に影響を与えることもあります。

他にも、乙がA社連帯保証人として負っている負債を、後継者のみに引き継がせたい場合に、債権者から債務引き受けの同意を得なければならない等の注意もあります。

経営者の相続は、注意すべき点が多岐にわたりますし、生前対策が非常に重要です。

早め早めの弁護士・税理士への相談をお勧めします。

 

※紹介した判例について、分かりやすさを追求するため、砕いた表現となっています。正確性を欠く場合がありますので、ご注意ください。

以上

監修者情報
弁護士野田 幹子

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